連結決算の意義と企業経営の進化プロセス

がんばろう日商簿記1級合格、今回は「連結決算の意義と企業経営の進化プロセス」というテーマでお話をしたいと思います。

日商簿記検定1級でかなりの人がぶつかる壁が、連結決算です。
次の6月の簿記試験では連結決算が出る可能性が高いです。

そういうことを踏まえて、ここで連結決算の本質を理解しておく必要があります。
資本と投資の相殺消去、成果連結、未実現利益の控除、貸倒引当金の修正、税効果会計など、細かい部分を最初からやってしまうと、そのような処理をする理由がわからなくなってしまいます。

私が教えていて思うのは、支配獲得日以降の連結手続きを苦手にしている人が多いということです。
「そもそも、なぜ開始手続をしなければいけないのか」という質問が多いのです。
狭義の本支店会計(支店独立会計制度)の知識が不十分だから連結が苦手になるのではないかということは以前にもお話しましたが、再度お話します。

まず、ステージが3つあります。
第1ステージは「本店集中会計制度」といって、支店があったとしても小規模なので、支店に総勘定元帳を持たせることはありません。
総勘定元帳がポイントで、総勘定元帳を持っていないということは仕訳をしないということなので、帳簿は本店にしかありません。
なので、支店で取引があった場合はすべて本店に報告をして、支店の取引も本店の担当者が記帳します。

事例を使って説明します。
x社という会社の進化形をみていきましょう。
本店の経理担当Aさんがいます。
支店はあるのですが、営業所や出張所のような規模の小さいものです。
営業所などの規模の小さい支店では、独立の総勘定元帳があるとは考えません。
小口現金出納帳のようなものを作って、それをもとに本店にデータを伝えます。
本店の経理担当Aさんがすべての営業所の取引をまとめるのです。
前T/B(決算整理前残高試算表)から始まり、決算整理をして、決算整理後試算表を作ります。

この後に何をするのかというと、公表のためにB/S・P/Lの組替え作業をします。
意外に手薄になるところですが、組替えは帳簿外の取引で、総勘定元帳に影響しません。
たとえば、簿記3級で出てくる「繰越商品」勘定は、貸借対照表に記載するときには「商品」勘定にします。

そして、簿記1級になると「棚卸資産」という名前に変わります。
あるいは、簿記3級で3分法を使うと売上原価を仕入勘定で表示することがらありますが、仕入勘定はあくまで帳簿上の話なので、外部に公表するときには「売上原価」表記しています。
あまりテキストには出ませんが、表示をするときには「組替え仕訳」というものをします。
「仕入」から「売上原価」に名称を変える場合は「貸方 仕入」「借方 売上原価」というように振り替えます。

このように、表示名称を変えるためだけの実態のない仕訳のことを、表示の組替え仕訳と言います。

これを意識すると違ってきます。

「繰越商品」勘定は、「商品」勘定や「棚卸資産」勘定に変えるのです。
それと、「売上」勘定というのも正式な表示名称ではなく、法律に則った損益計算書上の正式名称は「売上高」です。

だから、「貸方 売上高」「借方 売上」のように、表示を組替えするのです。
表示の組替えは帳簿外なので、「売上高」や「売上原価」と表示していても、元の総勘定元帳にはフィードバックしませんから、当然、総勘定元帳には「売上」や「仕入」となっているのです。
仕入勘定のまま決算振替をして、収益・費用をゼロにして、繰越利益剰余金に加算して、翌期に繰り越します。

これは帳簿の締切という「帳簿内」の処理です。
それに対して、「帳簿外」の処理は、いくら作業をしても総勘定元帳には反映されないということを覚えてください。
これを知っていると、連結決算の意味がわかってきます。
連結決算の本質は、果てしない「組替え」と修正なのです。
まずは、表示の組替えというのは、決算整理仕訳や決算振替仕訳とは違うということを覚えてください。

次に、x社は大規模化したため、本店の経理担当者Aさん以外にも支店の経理担当者Bさんを採用しました。
現実にはAさんが兼ねると思いますが、今回はわかりやすくするために、Cさんという第3の経理担当者を採用しました。
Cさんは、本店・支店経理とは全く関係無い、外部公表用のIR(外部向けの広報活動)関係を担当する人なので、AさんやBさんには情報の提供を求めますが、自ら仕訳を切ることはありません。
Cさんは表示の組み替えの仕訳をすることはありますが、総勘定元帳は扱いません。
本店・支店の総勘定元帳はそれぞれAさん・Bさんが担当します。

ということは、Aさんがやっていたことと同じことをBさんもやります。
やることは本店集中会計制度と同じなのですが、違うことが1つあります。
それは、未達整理が入ることです。
本店と支店の内部取引で、本店と支店の片方は仕訳したけれども、もう片方には取引の情報が未達のケースがあるので、これが処理を複雑化させる1つの原因です。

そのような状況で、未達整理と決算整理をして決算整理後試算表を作ったあとに、これを単純合算して合算試算表を作ります。
合算試算表を受け取ったところからがCさんの仕事です。
総勘定元帳をいじることはしませんから、帳簿外の表示の組替え・修正をやるだけです。
帳簿外の手続が2つあります。
簿記2級で本支店会計で合併整理を学習したと思いますが、まず1つは照合勘定の相殺です。
これは、「支店へ売上」「本店より仕入」の勘定科目を相殺します。
あとは、内部利益を控除します。
内部利益の控除に関しては、本店のAさんは総合損益という形で内部利益を取り込むので、内部利益の処理の一部は本店の経理に取り込んでいます。
CさんはIRしかやりませんので、合算T/Bを作って合併整理をしても、AさんやBさんの総勘定元帳にはフィードバックされないということを覚えておいてください。
Cさんの処理は本店や支店の経理には全く影響を及ぼさないということがポイントです。
Cさんは帳簿外でB/S・P/Lを作ります。

ここまでが、x社が大規模化した場合の、支店独立会計制度についての説明です。
さらにステージ3になって、今度はグループ経営をします。
x社は規模を拡大して、y社という会社の株式を100パーセント購入して支配しました。
その場合、x社のCさんが帳簿外で作ったB/S・P/Lからスタートします。
だから、連結決算の修正はすべて、元々のAさんやBさんの総勘定元帳に反映しないのです。

連結はCさんやy社の経理担当Dさんが出したB/S・P/Lを単純合算します。
総勘定元帳の修正ではなくて、B/S・P/Lの修正をします。
そして、x社の決算担当をしているEさんという人が登場します。
Eさんは、x社の決算係CさんからもらったB/Sと、y社の決算係DさんからもらったB/Sをもらって、問題があったらCさんに問い合わせます。
そしてそれを聞いたCさんは、担当する本店・支店に問い合わせるというピラミッド構造があるのです。

Eさんは合算のB/S・P/Lを見て、各会社の状況を把握します。
そして、資本連結の手続、成果連結の手続という連結特有の修正をするのですが、これをやったら来年に繋がるわけがありません。
そもそも、B/S・P/L自体が外部公表のものであって、総勘定元帳とは関係ないものなので、それをいくら弄っても、総勘定元帳に遡って修正するわけがないのです。
ということは、連結の修正は今年の1回限りで終わりがなく、繰越手続がないのです。
繰越手続があるのは、本店集中会計制度と、支店独立会計制度でAさんとBさんの決算振替があるところだけです。

支店独立会計制度でのCさんは関係ありません。
連結では、Cさんから受け取った決算書を連結決算をしているので、もはや連結B/S・P/Lは来年との繋がりは全くないのです。
だから、作ったら終わりなのです。

したがって、連結修正が各社の総勘定元帳に反映されることはありえません。
だから、年度が替わったら、x社とy社の総勘定元帳は連結修正前のものが下りくるので、相変わらず初年度からもう一度やり直すのです。
これを永遠に再現し続けなければいけないので、連結決算にはコンピュータシステムが不可欠なのです。

昔は手書きでやっている人を見かけたこともありますが、大変です。
そもそも連結決算は、本支店合併整理という、帳簿外の手続きで出来上がったB/S・P/Lをもとにしているので、総勘定元帳からは遠く離れているのです。
したがって、連結手続きというのは、大元の会社の総勘定元帳に影響するわけがないので、来年度以降は連結修正を完全に無視した状態で総勘定元帳が来るので、支配獲得時から仕訳をしなければならないのです。

だから、過年度に遡って連結修正をするということを理解してください。
1つ1つの帳簿の発展過程を見るとよくわかります。
スタートは支店が小規模で本店集中会計制度で、これが一番簡単です。
表示の組替えはしますが、組替えをしたB/S・P/Lは2期比較はできるものの、来年には繋がりません。

繋がるのはあくまで総勘定元帳なのです。
支店独立会計制度になると、本店と支店の経理で帳簿の繋がりや連携はありますが、決算係のCさんが作るB/S・P/Lは帳簿外の修正をしています。
そもそも、本店勘定・支店勘定は無いので、この時点で総勘定元帳との連携は一応遮断されます。

連結では帳簿外のB/S・P/Lをもとに合算するので、総勘定元帳から最も遠い位置にあるのが連結決算だと思ってください。
日商簿記検定1級を勉強することで、本店集中会計制度、支店独立会計制度、連結決算の3つをすべて体験できます。
これが企業経営の基本であり、帳簿の進化形です。

このように、本支店会計の帳簿外で作ったB/S・P/Lなどをさらに合算して修正したものが連結決算なので、その修正項目は個々の会社の総勘定元帳にはフィードバックされません。
なので、連結3年目だろうが、4年目だろうが、毎回1年目の連結に遡ってやり直す必要があります。
これを知っていただくと、支配獲得日以降の連結手続きの意味が少しはわかってくるかなと思います。
大雑把でもいいので、常に最初に戻ってやり直すというのが連結の基本だというイメージを持ってください。

私はあなたの連結のマスターと簿記1級合格をいつも応援しています。
ここまでご視聴いただきまして誠にありがとうございました。

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