タモリ社長といいとも株式会社、長寿の理由を考える

まちかど会計学

政治、経済、ビジネスに人間関係、街角のあらゆる話題に数字を結びつけ、会計士の立場から見た意外な真実や現代を生き抜くための転ばぬ先の杖をお伝えする、まちかど会計学。

4月になり、新年度ということで新旧交代の時期ともいえます。新旧交代といえば、みなさんも一度は見たことがあるであろう「笑っていいとも」ですが、約30年の歴史に幕を閉じました。

私は「いいとも」の前にやっていた「笑ってる場合ですよ」という番組が好きで、「いいとも」が始まったときには「なんだろう、この番組」と思ったけれど、気がついたら好きで見るようになってしまいました。

今回スポットを当てたいのは、短いものは半年で終わってしまうテレビ番組があるなか、「いいとも」が30年以上も続いたというのはすごいことだということをお話したいのです。
それを会社で考えてみたいと思います。

今回はタモリさんを社長に見立てて、「笑っていいとも」という番組を“事業活動”として、長く続く会社の特徴について私なりに斬ってみたいと思いました。

題して「タモリ社長といいとも株式会社 長寿の秘訣」ということでお話したいと思います。

「笑っていいとも」が“プロジェクト”として30年以上続いたのがどれだけすごいことかというのを、一般企業の例を引き合いに出してお話したいと思います。

過去の帝国データバンクの調べなどの数字を参考にすると、だいたい開業して5年で全体の2割程度の事業が廃業するらしいです。

10年で30パーセントの事業が廃業します。

ということは、10年経って生き残っている会社は全事業の7割だということです。
20年で50パーセントだそうです。

このような一般的なデータもありますが、私が中小企業などを中心に会計事務所として見てきた20年の経験でいくと、10年で残っているのは7割もないかもしれません。

例えばお医者さんや会計事務所などはなかなか廃業しない業種ですが、美容院や飲食業やクリーニング屋さんなど、移り変わりが激しい業種だと2割ぐらいしか残らないケーがあります。

私の感覚では、業種によっては10社のうち7社から8社ぐらいは10年後に入れ替わっているケースもあります。

移り変わりの激しい特定の地域などもあるので、ケースバイケースだと思ってください。
そうは言っても、20年も経てば半分以上は消えてしまうと思ってください。

そうすると、30年も会社が残るというのは相当なことで、1割あるかどうかと思ってもおかしくないです。

半年に1回は番組編成が変わるのですから、テレビ番組というのは飲食業よりも移り変わりが激しいです。
そのような業界で30年以上続くのはやはりギネス級です。

このように、一般企業と比較しても32年程度続いた「笑っていいとも」というのは、相当すごい長寿番組、あるいは“長寿プロジェクト”といえます。

「いいとも」が長生きできた理由を会社経営に関連づけて話してみると面白いです。
社長のタイプも関係していますが、そこで出てくるのがタモリ社長です。

少し前のライバル番組では、みのもんたさんや久米宏さんなどがいましたが、そのような人たちはリーダーシップを発揮するようなタイプです。

一方で、タモリさんはどうかというと、私のイメージでは「俺についてこい」という感じではないという気がします。

リーダーにはいろんなタイプがいますが、例えば3つ考えてみると、一番リーダーとして引っ張っていくタイプは「専制型」で、ほとんどの中小企業はこれです。

「会社の金は自分の金」「上司の失敗は部下の責任」みたいな、「大和田常務」とは真逆だと思われるのがタモリ社長です。

しかし、中小企業というのはそれでいいのです、自分の裁量で経営したいと思っているのですから。

なぜなら、自分がトップとして金を出してリスクを負っているのだから、権限があって当たり前なのです。

ほとんどの日本の中小企業は「オーナー企業」といって、自分に権限があるので、失敗しても自分の責任なのです。
だから「大和田常務」にはなれないのです。

部下の失敗も自分の失敗に響きますから、そういう意味では中小企業の社長はリスクが高いですから、専制型になるのはある意味で自然なのです。

失敗したら従業員を食べさせることができないので、歯を食いしばって土日も働くというのが中小企業の社長さんです。

あとは、見えないところで、資金繰りや、銀行との関係や、明日の売上を心配したり、なおかつ自分の財産まで提供していますので、やはりリスクに対する危機感が違うので、専制型になりやすいのです。

その他に、「共和制」というか、何名かの経営陣が話し合いをして決まったことで会社を運営するスタイルも、少数ですがあるにはあります。
複数の人と共同経営をしている会社もあります。

それぞれのスキルを活かして、Aさんの足りないところをBさんが補うという形で、共同合議型というのはリスクが少ないですが、危機があるときに即断即決でトップダウンでやるべきときに合議制というのは時間がかかってしまうのです。

そのため、いざという時の決断力に欠けるのが合議制なのです。

専制型というのは、いざという時の展開力が違います。

ただし、その決定を間違えてしまうような経営者ではしようがありません。
経営者のセンスにかかっているのは専制型です。

しかし、“平和”なときというのは、専制型はブラックのようになり、社長の独走になって従業員がついてこない場合がありますので、そういうときは合議制が良いです。

だから、すべてが万能ではなく、状況に応じて専制型の色が強くなるか、合議制がメリットを持つかというのは変わってきます。

もう1つ、「権限委譲型」というものがあります。
自由放任とも違いますが、権限を任せるタイプというのは、「自分自身にはすべてができない」という、万能性がないという良い意味での開き直りというか、客観性があります。

それぞれの持ち場で優秀な人材を揃えて周りに任せるというものです。
これは理想ですし、ここまでできると会社は大きくなるのです。

専制型というのは限界があって、私の感覚では2・3億か、いっても10億いくかどうかです。

それを超えて大企業に羽ばたこうと思ったら、どうしても権限委譲が必要になるのです。
権限委譲型になると長期政権とか世代交代もしやすいです。

全部1人で抱えてしまうとリスクが高いのです。
その人のセンスが古くなったらアウトなのです。
これが老舗企業で失敗するパターンの1つです。

ということで、私の直感ですが、タモリさんは他の個性の強い方と比べて違った意味の個性があります。

自分で何でもかんでも引っ張って「俺についてこい」というタイプよりは、上手く番組を周りに任せて、それぞれの持ち場でモチベーションを高く、能力を活かせる、権限委譲型の側面が強いのかなと思っています。

私の経験から、権限委譲型が機能する条件が2つあって、1つは委譲するスタッフにある程度の能力があることです。

最初から優秀ではなくても、育てていくというパターンもありますし、そういう人を探すために人事交流をします。

本来の異業種交流会というのはこういうことに使うのです。
人事交流というのは、仕事を取りにいくだけではなくて、優秀な同業者や提携先や部下を探しにいく目的もあるのです。

突然どこかの求人誌に載せて入社させるだけではなくて、普段から意識して優秀な人材を長期スパンで招き入れます。

そのためにも、そういった知り合いをたくさん持っておくということです。
優秀な人材を周りに置くようにして、なおかつ、彼らのモチベーションが高いということです。

優秀な人材で、なおかつモチベーションが継続的に高いという、この2つの条件がなければ委譲しても仕方ありません。
優秀ではない人に権限を委譲すると引っかき回されます。

もっとタチが悪いのは、優秀だけどモチベーションが低い人です。
そういう人に権限を委譲すると、上手く手を抜かれますし、逆に美味しいところを持って行かれます。

そのため、「優秀だけどモチベーションが低い人」と「優秀ではないけどモチベーションの高い人」のどちらを選ぶかといったら、私ならば後者を選びます。

そして、その人のできる範囲を見定めて、その限定的に権限を委譲します。
このように、モチベーションが高いことが一番なのです。

「笑っていいとも」には2つあって、表に出る曜日ごとの出演者も裏方の制作スタッフの優秀な人材も、どちらも優秀であってモチベーションが高いというのが、プロジェクトが成功する1つのポイントです。

そして、モチベーションが高くて周りをまとめる力があるのがナンバー2です。
タモリさん自身もタレントとしてはもちろん一流だと思いますが、全部自分がやろうとすると、3年5年はいいのですが、10年20年となると時代の変化があるので、そういったものに敏感になるには1人では限界があります。

端々の細かいところで感じ取ることが必要です。
番組の場合だと「視聴率」です。
視聴率が多くなると収入が多くなるし、知名度も上がります。

普通の会社でいうとこれは「売上」にあたります。
売上を上げられるかというのは会社のポイントなので、人材が優秀かどうかというのもマーケット要因に依存するのです。

お客様に相当するのが番組ならば、視聴者が見たいと思うものを長期的に継続して絶え間なく提供し続けるというのはすごいことです。

30年前のように、同じような価値観で同じようなものを流しておけば変化は急に来なくて怖くありませんが、今は何百種類の嗜好があるので、その中から多くの人に見てもらうというだけでもセンスが必要です。

現時点の多様性、それが時系列とともに変化していく多様性の2つがあるのですが、これらに敏感に対応しようと思ったら、タモリさん1人では限界があると思います。
タモリさんの年代の男性という1つの属性から20代女性の感覚を持つのはきついです。

世代や性別や立場の違いというのは感性を鈍らせますが、スタッフには色々な人がいると思うので、時代によって変化するものを優秀なスタッフが感じ取って、それに合わせて適切なコンテンツを出すという感覚のある人がたくさんいるはずなのです。

それに合わせて出演者も色々なネタが出せるというような、色々な意味での、表側のスタッフ、裏側のスタッフの優秀さがあります。

もう1つは、月曜から金曜にはそれぞれ企画がありますが、“品揃え”が豊富なのです。
背後に控えている埋蔵資源が豊富なので、どれを出そうかということが選べます。

つまり、豊富な商品の蓄えがあるからこそ番組が長くなったのかなという気がします。
もちろん、良いものを職人さんの良い腕で適切に出すというところまで揃ってはじめて長い間視聴率や売上が上がるのだと思います。

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