退職給付会計を試算表でイメージ

がんばろう日商簿記1級合格、今回は「退職給付会計の試算表イメージ」というテーマでお話をしたいと思います。

1級の勉強をされる方の何割かは退職給付会計を複雑に捉えてしまって、苦手意識をもっていらっしゃる方も多いです。

まずは大枠を掴んで、細かい部分について必要な範囲で検討を加えてください。

今回は、退職給付会計特有の残高試算表のようなものを作りました。
これは本来の主要簿のなかには存在しませんが、退職給付引当金という個別決算上の引当金項目、あるいは今、連結上は「退職給付に係る負債」といいますが、こういった勘定科目の背景にある退職給付の全体像の残高試算表を見てみましょう。

簡単な数値例でみていきます。
最後、会社の決算で退職給付引当金や連結上の退職給付に係る負債と出てくるのは250とか400というところですが、背景にあるのが退職給付会計のT/Bで、これは退職年金基金に預けてあるお金の一覧表だと思ってください。

退職年金基金に預けてある資産と、本来払うべき負債の特別勘定というイメージです。
まず、退職給付債務というのがあって、これは期末時点で在籍している社員の退職給付の将来の支給見込額の割引現在価値です。

既に労働サービスの提供を受けている分についての将来の退職金の見込み支給額を割引計算しています。
たとえばこれを100とします。
貸方の退職給付債務はその時点までの勤務年数に応じた勤務費用と利息から構成されています。

もちろん、利息費用は年を重ねるごとに増えていきます。
借方には預けた資産があります。
年金資産は拠出したものです。

これはどのように評価するのかご存じの方も多いと思いますが、時価です。
現存する従業員の将来の退職金の見込額の現在価値100から、今預けてある拠出した年金資産の時価600を差し引いた400が積立不足です。
ただ、個別決算上、この400がすべて退職給付引当金になるかというと、そうではないです。

年金資産の予定の期待運用収益といって、見積で出した金額と実際の時価の差額だとか、退職給付債務の計算根拠が変わってくると、数理計算上の差異が出てきます。
工業簿記・原価計算でいうところの、予算実績差異だとか標準原価と実際原価の差のようなものだと思ってください。

この差は、すぐには個別決算上は引当金として入れません。
それから、過去勤務費用といって、退職金の支給のベースが変わった場合の差額です。
一時の引当金にしません。
250+70+80で、本来は400の積立不足がありますが、これを引当金とはしません。

数理計算上の差異や過去勤務費用は長期的に影響を及ぼすものなので、複数年にわたって損益を平準化することもあるので、複数にわたって配分します。
ですので、250しか引当金にしないのです。

未認識の数理計算上の差異や過去勤務費用を除いたものが退職給付引当金です。
この全体像を書けるようになっていただきたいです。
これが、従来の個別決算上の退職給付会計です。

しかし、最近は、数理計算上の差異や過去勤務費用も本来は積立不足なのだから、その情報もバランスシート上で明らかにしましょうという流れになって、退職給付に係る負債というものが連結にはあります。

まずは残高で見ていただきたいです。

退職給付債務100から年金資産600を引いたものが、連結ベースの退職給付に係る負債です。
そこからさらに数理計算上の差異と過去勤務費用を除くと退職給付引当金になるという関係です。

ちなみに、今回、数理計算上の差異は借方残高で、繰延資産と同じく将来の費用の未認識の部分ですが、貸方になることもあり得ます。
過去勤務費用についても借方に出ていますが、問題文の条件などによっては貸方になることもあり得ます。

今回はわかりやすくするためにすべて左側に集めましたが、数理計算上の費用も過去勤務費用も貸方に出ることがあるので注意してください。
この試算表を3回ぐらい書いてみると、イメージで退職給付会計の全体の枠組みがわかります。
そうすると、その後の細かい規定についても、この枠組みに当てはめて理解ができるようになります。

退職給付会計に困ったら、退職給付会計の便宜上の試算表を意識して勉強してみてください。
貸方に退職給付債務、借方に年金資産、そして今回は借方残高にしましたが、数理計算上の差異と過去勤務費用を足したり引いたりして退職給付引当金になるというイメージです。

実際、数理計算上の差異や過去勤務費用が借方にあると、退職給付引当金は実際の積立不足よりも過小表示になっているのです。
これが以前、色々と問題になった話です。

なので、連結上は退職給付に係る負債としたのです。
あと、数理計算上の差異と未認識の過去勤務費用の未認識の部分は、その他包括利益累計額といって、その他の包括利益に入ります。

費用にはなりませんが包括利益の構成要素になることを知っておいてください。
今回は退職給付会計について、苦手な方のために全体像のご案内をしました。

私はいつもあなたの1級合格を一生懸命応援しています。
ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございました。

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