増資の会計処理と、株式の種類や議決権に関する基礎知識

まずは、増資の意義について、いっしょに確認しましょう。

増資とは、「会社を設立したあと、新規に株式を発行すること」です。
通常は、株式の発行に伴って、株式を割り当てた人(株主)から、金銭等の払い込みがありますね。

このように、金銭などの払込みを受けて新株を発行することを、「有償増資」といいます。

簿記の入門知識ですが、増資をすると、仕訳という記帳方法は、下記のようになります。

(例)増資を行い、1000万円の払い込みを受けた。
——————————-
              |
(借方)現金預金1000万円|(貸方)資 本 金1000万円
              |
——————————-

バランスシートの表示は、下記のようになります。
         バランスシート(貸借対照表)(百万円)
  ―――――――――――――――――――――――――
  (資産の部)      |(負債の部)
   流動資産       |  :
    現金預金  +10 |
     :        |(純資産の部)
   固定資産       | 資 本 金  +10
     :        |  :
         ―――――|       ―――――
    資産合計  +10 |負債純資産合計 +10
         =====|       =====

このようにしてみると、会計帳簿の「仕訳」の形と、バランスシートの表示イメージは、なんとなく似ていると考えられますよね。
さて、話を戻しますと、純資産というのは、かんたんにいって、「会社の所有者である株主」の取り分です。

負債は、株主から見て他人(銀行、仕入先、税務署など…)のとりぶんですね。

だから、純資産のことを、別名「自己資本」ともいいますし、負債のことを、別名「他人資本」とも言うわけなんです。
そして、資本金は、会社の「登記事項」ですので、第三者でも、その会社の本店所在地の法務局(登記所)にいけば、1000円で登記簿を入手でき、資本金の情報や会社の役員の情報、営業目的など、定款に書かれている主要項目の
データを確認することができます。

そのさい、「資本金」という情報は、その会社の信用の尺度でありますから、非常に重要な基礎データということが
できますね。
なお、「資本金」の意味は、「会社が決めた、社内に維持すべき最低限度の財産」ということですから、「資本金1億円」といえば、少なくとも「負債控除後」で1億円以上の財産は、社内に持っていますよ、という宣言になるのです。

こう考えると、「資本金に見合った財産を維持すること」は、会社にとって、対外的に信用を維持するためにも、きわめて重要な努力目標なのです。

さて、今は、会社法の改正などもあって、定款でいろいろな規定をすることにより、本当に自由に会社の経営形態を決めることができるようになりました。

いわゆる「種類株」というものも、会社の経営形態を柔軟かつ幅広くするために役立つ制度です。
なお、種類株とは、一般に、議決権がついていて、通常に売買されているもっとも典型的な株式、すなわち「普通株」とはちがった権利内容を持っている株式のことです。

■種類株の主なもの

1.優先株
配当や、残余財産の分配(解散時)について、普通株式よりも優先的に受取ることができる株式のことです。
その代わり、議決権がない、などの場合が通常です。

なお、優先株は配当率が固定されていて、配当を受け取れる確実性は増しますが、企業の経営が好調で儲かっている時でも高配当が受け取れなかったりします。
さらに、優先株の多くは普通株へ転換できる転換権が付いています。
これを転換予約権付株式と呼ぶのですね。

2.劣後株(後配株)
他の株式よりも配当順位が低い株式のことです。
権利内容が、他の株式よりも不利なのが特徴ですね。
だから、経営戦略上、経営者とか発起人などが引き受けたりするケースが見られます。
あとは、権利内容が不利な分、値段も割安となりやすい、ということが考えられるでしょうか。
ちなみに、会社に利益が上がっていない場合は、通常、株式を発行して増資すると、一株当りの価値が下がり既存の株主の配当も下がる恐れがありますよね。
そのような場合、普通株主の利益を損なわずに、資金調達する方法として重宝します。
ところで、後継者対策や相続税対策の一環として、優先株や劣後株が利用されることが、考えられます。

たとえば、会社のオーナー社長が長男に事業を引き継がせたい時、長男には議決権はあるけれど配当が少ない劣後株を譲ります。
その一方で、自身は、配当は多いけれど議決権のない優先株(無議決権株式)を所持すれば、他社によるM&Aや経営権を巡る醜い争いを未然に防ぎながら、贈与税・相続税対策もスムーズに行えたりするので、大変便利な手段といえますね。

3.黄金株(拒否権付き株式)
株主総会での拒否権を与えられた株式のことで、敵対的買収などの防衛策として議論されることが多いです。(会社法108条1項8号、2項8号)。
敵対的買収者が出した議案をバシッと否決できるので非常に強い権利といえますよね。
ちなみに、この黄金株は、一株だけの発効を認めている国が多いとのことですが、米国の証券取引所では発行を禁止しているほか、EUでも廃止論が強いとされているそうです。
(参考)exBuzzwords
     http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_1543.html

以上、現在は、会社法の改正などもあり、新株発行は単なる資金調達手段としてだけではなく、種類株を有効に活用した経営戦略、相続対策なども考えられる、というお話でした。

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