第140回工業簿記は「費目別計算と勘定分析」

がんばろう日商簿記1級合格、今回は第140回の工業簿記について現実的な得点戦略と講評をしてみたいと思います。

受験された方、お疲れさまでした。
今回は工業簿記に絞ってお話をしますが、商業簿記、会計学、原価計算もポイントをお話したいと思います。

初めての出題形式だと思って焦った方もいらっしゃるかもしれませんが、これは表面上本社工場会計ということになっていますが、本質は違います。

これは本社工場会計ではありません。
これを見て慌てて本社工場会計の解き方を思い出そうとしてもほとんど意味がありません。
本社工場会計特有の論点はほとんど出ていません。

実質は費目別計算と勘定分析です。
本支店会計の知識で充分です。

本当の本社工場会計というのはもっと複雑で、本社が材料を仕入れて工場へ材料を内部振替価格で振り替えて、工場が内部利益込みの材料に加工をして仕掛品になり、完成した製品を内部利益込みの価格で本社へ振り替えます。

全ての在庫で内部利益を計算するのが本来の本社工場会計ですし、未達もないので今回の問題は本社工場会計とは言えないということは知っておいてください。

表面上の形式に惑わされないようにしてください。
それに惑わされた瞬間に出題者の意図にひっかかったことになってしまいます。

簿記2級レベルの内容ですが、難しいのは、簿記2級の知識を縦横無尽に活用して解かせることです。

それは簿記1級レベルでも難しくなってしまいますので、この問題はそういう意味では難しいと言えます。
ただし、知識的には簿記2級に毛が生えたようなものなのです。

良い問題といえばそうなのですが、出題傾向からするとしてやられたという感じです。
ただ、気付いたら「そんなに簡単な問題だったのか」となります。

実際、14点ぐらいまではちょっとしたパズルです。

必要なのは簿記2級でやった製造原価報告書と仕掛品勘定の関係だけなのです。

あとは勘定分析さえ普通にできれば高度な知識はそれほど必要ではないのです。
ただ、1個だけ面倒なのは、材料棚卸減耗について材料棚卸減耗引当金という月次損益管理の実務的な話なので、ここは完全に飛ばします。

そこが関係するのは問5と問8の2つだけなので、3点の配点がくるかどうかはわかりませんが、予想配点を考えてみました。
傾斜配点がくればもっと点数は上がると思ってください。

私の予想配点は、1個3点平均で8個あるので24点で、問3だけ製造原価報告書が少し細かいので4点としています。

私の直感では、問1はできるはずなので正解率が高くて、問2の正解者はおそらく全体の5分の1だと思いますが、ここが出来ていればかなり有利です。

問3は1ヶ所1点で4点ぐらいだと予想しています。
特に経費と製造間接費の配賦差異は難しいと思います。

問4はできないとまずいです。
問1と問3の半分と問4は出来なければまずいです。

問5はおそらくできません。
これができたら会計士試験の短答式レベルに近いと思います。

問6はほぼ普通の本支店会計なのでできます。
問7は問4ができれば正解できます。

問4・6・7で9点取れます。
問1が3点、問3で2点、14点、問1は3点と予想しましたが、みんなが解けるような問題は4点にしてくれればもっと上がりますので、最低14点は取れます。

傾斜配点でどこかでもう1点ぐらい取れるとすれば15点はいけますので、目標は15点です。
最大は19点ぐらいまでいけると思います。

問5と問8は捨て問題だと思いますが、これを捨てても3点ずつの配点で6点です。
ただ、問8はすごく正解率が低いと思うので、ここは配点が1点となる可能性もあります。

そうすると、他の部分で点が増えるので、うまくいけば16・7点はいけるのです。
先程申し上げた問1、問2の半分、少なくとも期末仕掛品棚卸高はできやすいと思っています。

経費はできないと思います。
経費と製造間接費配賦差異ができたら実力者です。

当期総製造費用26,150は下から逆算でも構わないので答えて欲しいです。
あとは適当に数字をいれるしかないです。

問4・6・7はできて14点は確保して、配点の状況などでプラス1・2点すれば15点はいきます。

今回は原価計算が点を取りやすいので、目標は20点なのです。
原価計算で20点を取って工業簿記で15点ぐらい取って35点というのがリーズナブルな得点戦略です。

では見ていきましょう。
問題文そのものは見せづらいですが、問題文の一部の解答プロセスはお見せします。
実はこれは問題文の一部で出ています。

材料勘定で期首の実際が500、仕入の実際が10,000です。
仕入は実際だけど予定価格で消費しているので消費価格差異が出ます。

9,700は予定で、期末の在庫は62キロで実地棚卸が61です。
そのため、61×10円で埋めていきますと、期末の材料は610です。

棚卸減耗が10です。
棚卸減耗の取扱いは今回難しいので、ここは飛ばしていいです。

原価差異が今回の問1で、借方10,500、貸方の原価差異は10,500-9,700-10-610で180になります。

これは単純な勘定分析で、わかっていれば簡単です。
初めて見て、本社工場会計というノイズが入った状態で気付くかどうかなんです。

本社工場会計のことを忘れられれば全く問題なく解けます。
本社工場会計だと思ってしまった瞬間にパニックになってしまうと解けないかもしれないです。

こういうところをできるようになって欲しいです。
できるところを取れば7割取れます。

次にいきます。
問2はやれば出来るのですが、できなくてもしようがないと思います。
イメージとしてはこんな感じです。

賃金給料ですが期首がわかりません。
1ヶ月目2ヶ月目って月次はわからないのです。

1年間のトータルで8,050というのはわかるのですが、これは解答用紙に書いてあります。
この8,050を賃金給料だと仮定して、この8,050のうち6,050は仕掛品です。

差し引きは2,000が製造間接費の賃金にいってるということがわかります。
製造間接費勘定が貸方残高で100出ています。

ということは、実際よりも予定配賦のほうが100多いということです。
これは有利差異なのです。

実際にはいくらで振り替えたのかというと、予定配賦額は10,400と問題文に出ているので、貸方が10,400で100多いということは、借方の実際は10,300です。

ここはその気になれば簿記2級レベルの知識でもいけますが、きついかもしれないので、出来なくてもしようがないです。

柴山式の簿記2級工業簿記対策でもこれに近い勘定分析はやったことがあります。
言ってしまえば、これは製造間接費と仕掛品勘定の関係なのです。

簿記2級レベルの勘定分析をしっかりやれば意外とできるのです。
ということで、製造間接費の貸方残高なのです。

振り替えすぎている100を製造間接費配賦差異に振り替えられるという話です。
予定のほうが振り替えすぎていて実際のほうが少ないのです。

賃金が2,000で貸方が10,300なので、ここは差し引き8,300だということに気付くけばいいのですが、これはできなくてもいいです。

簿記2級の勘定分析を応用するとこんな感じになります。
昔はこういう勘定分析は結構出ましたが最近はなかったので、原点回帰という意思表示なのかもしれません。

良い問題なのですが、最近これをやっていない方は面食らうということです。
借方の支払はわからないのです。

賃金給料は試算表を見ると貸方残高が210になっているのですが、これは期末の決算整理で未払費用計上前ということに気付くかどうかなのです。

「借方 賃金給料260」「貸方 未払費用260」という決算整理をする前だったのです。
決算整理をしましょうと問題文に書いてあるのです。

すると借方260が埋まるので、差し引き50が賃率差異で、これが問2です。
これに気付いたら「貸方 賃金給料50」「借方 賃率差異50」となって、ここまでやると簿記2級レベルなのです。

未払費用の処理を1個かませるかどうかって気付くかがセンスなので、これはできなくてもしようがないです。
ということで、問2の答えは賃率差異です。

問3は仕掛品勘定を元にバンバン埋めておけば2点ぐらいつくだろうと思います。
もし経費の8,300が答えられたら素晴らしいです。

製造間接費配賦差異100は答えられなくてもしようがないです。
あとは工場のほうで27,405、期首は675と推定できますが、これはどうでもいいです。

本社への売上の売上原価の26,520は試算表に出ています。
期末は1,560です。

問題はここで、売上が28,650と出ていますが、これは本社への売上で、振替価格が280と出ているので28,560÷280で102個が出ました。

実はこの102個というのは売上原価なのです。
売上原価勘定が26,520ということは、26,520を102個で割れば原価は260と出すことができます。

この260が問4です。
そして260円がわかると問7ができます。

つまりこれは本社の期末の製品の内部利益を求めさせる問題です。
問題文を素直に読めば、内部利益は工場から本社への振り替えしかないので、今回は簿記2級の知識の延長で簡単なのです。

たとえばこれが本社から工場の材料の売上に内部利益があると公認会計士か税理士簿記論の難易度になってしまいます。

将来それが出るという予告の意味だったら怖いですけど、今回の問題については関係ありません。

ただ、世間の専門学校は対応すると思います。
本社の製品は期末4個なので、4個に対して1個あたりの内部利益がわかればいいです。

280振り替えていて、元々の原価は260なので、1個20円×本社の期末残高4個と書いてあるので、20×4で80千円です。

したがって問4と問7はワンセットなのです。

これで6点です。

ここができるかどうかで合否が決まります。
難しい知識は必要ないので、わかればどうってことは無いのですけど、気付くかどうかなんです。

知識の詰め込みではなくて、基本的な知識を組み合わせて答えられるかということです。
配点の調整があるならば17点ぐらいまでいく可能性はあります。

問1が3点。
問2はできなくてもよいです。
問3はいろいろ書いて2点ぐらい取りましょう。

問4は3点。
問5は捨てていいと思います。
問6は3点。

問7は3点。
問8は配点が2とか1になる可能性があります。

特に問1がいちばん出来が良いはずなので、ここで4点くれば点数は上がるので、わかりません。

諦めずに頑張って部分点を取りにいきます。
ということで目標は15点ということになります。

原価計算は目標20点ぐらいで、2つあわせて35点前後で7割を確保して、上積みができればしてください。

最近も動画で言いましたが、新しいテーマが出ても気にしないでください。
本社工場会計特有の論点は滅多に出たことないですから気にしないでください。
しかもはじめてですから。

そういうときは、表向きはテーマが派手に違うと思うかもしれませんが、よく見ると基本的な勘定分析で、ちょっとした気づきがあれば15点ぐらい取れるということに気付いていただければいいです。

新しいテーマを気にしないということを問われている、ある意味で良い問題です。
知らない問題は気にしないでください。

原点回帰のクラシックな問題であるということをご理解ください。
今回の工業簿記は15点から17点は頑張って取れないことはない問題です。

ぜひ頑張ってください、まだまだあなたにも可能性はあります。
私はいつもあなたの簿記1級合格を応援しています。
ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございました。

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