資源価格の上昇と、影響を受ける決算書の表示科目

世界的に、原油価格が高騰している、という状況は、ご存知だと思います。
この状況は、2001年を過ぎたあたりから恒常化してきたのですが、歴史を紐解きますと、1971年と1973年に2度、石油価格の上昇によるパニックがありました。
いわゆる「石油ショック」です。

このときは、中東の輸出国による輸出中止や戦争による供給減が原因であり、供給側の数量不足がきっかけとなっています。
しかし、今回の原油高騰は、ちょっと事情が違うようです。
産油国の輸出引き締めも、軍需による供給減も目立ったところはありません。
むしろ、近年、経済的に台頭してきた中国やインド、米国の好景気といった、需要の逼迫に大きな原因があるとの見方が一般的です。
なお、モノの値段が上がるのは、自然現象として、

       需要側(買いたい人) > 供給側(売りたい人)

というように、需要側の方が大勢を占めているときです。

したがって、今後も継続的に需要側が活発ならば、継続的に物価が上がり続ける可能性も十分にありますね。
ところで、原油価格の上昇は、企業の決算書のどこに影響するか、こたえられるでしょうか?

答えは、

「売上原価・販売費及び一般管理費といったP/L」に及ぼす影響、
「製品在庫・原材料の在庫・設備の評価額といったB/S」に及ぼす影響

など、多岐にわたる、です。

具体的には、原油を材料として化学製品を作るメーカーなどは、バランスシートの製品中に含まれる材料費が上昇するため、製品原価を増加させます。もちろん、原材料の備蓄にも影響がありますね。

              貸借対照表
      ――――――――――――――――――――
      (流動資産)     |
        :       |
       製 品      |
       仕掛品      |
       原材料      |
        :       |
     (固定資産)     |
        :       |
       車両運搬具    |
       備   品    |
        :       |

上記のバランスシート(貸借対照表)を見ると、流動資産(資金化が近い資産)の中に、製品・仕掛品(未完成の製品)・原材料とあります。
これからは、原油価格の高騰とともに、膨張しうる資産項目です。
ほうっておけば、在庫金額を月次の売上原価で割った「棚卸資産の回転月数」という指標が大きくなり、過剰在庫を示すことになりますね。
※適正な在庫の回転月数は、業種にもよりますが、一般に 1ヵ月?2ヵ月あたりが平均でしょう。それ以上だと、過剰在庫である可能性があります。

つぎに、固定資産(設備など、すぐには全部が資金化されない資産)では、原油から精製されるナフサを原料とした樹脂が材料の一部として使われる自動車・家電製品などが高くなる可能性を秘めています。

ただし、日経新聞のリポートを見る限り、現状ではまだそこまでの価格転嫁はないようですが…
なお、家電製品で多額のものを購入すれば、やはり固定資産(備品)として会計処理されることになります。

ここで、インフレなどの影響で怖いのは、将来、再投資するときに、今以上に設備がどーんと値上りしていることなのですね。
再投資のときに、いまより値上りしていると、同レベルの設備投資を阻害する要因ともなります。
また、損益計算書の面でいきますと、「売上原価」と「販売費及び一般管理費」への影響が大きいですね。

               損益計算書
           ――――――――――――――
           1売  上  高    A
           2売 上 原 価    B
                      ―――
             売上総利益     X  ←(A-B)
           3販売費及び一般管理費 C
                      ―――
             営業利益      Y  ←(X-C)
                       :

原油価格の値上げが、販売価格に転嫁できなければ、売上高のAは変わりませんが、製品に原油を原料とする化学薬品が含まれていれば、材料費という原価要素が異常に高額となりますので、当然、Bの売上原価が大きくなります。
これにより、売上総利益(粗利)が圧迫されます。
企業の要(かなめ)は、粗利をいかに確保するか、にあります。
※参考「中小企業・決算書の基礎知識」
 → http://bokikaikei.net/tyusyo-dvd.html

原油を原材料にしているメーカーは、粗利にダメージを受ける可能性があります。
次に、これはすべての業種に共通することですが、輸送コストが上昇しますね。
最近では、ガソリンの値上げがすごいです。

これは、損益計算書の上では、販売費及び一般管理費を構成する「旅費交通費」に跳ね返ってきます。
ちなみに、近年の原油の値上げ幅はすさまじく、年間10%はザラです。

ここで、もしも年間10%ずつ、ガソリンが3年間連続で値上りしたと仮定してください。

インフレの怖いところは、複利計算であることです。
たとえば、現在のガソリンが100円だとして、

100円×1.1×1.1×1.1=100円×1.331=133.1円

です。

自動車10台を使って年間に10000リットルのガソリンを消費するとしたら、

 100円×10000リットル=100万円が、
 133.1円×10000リットル=133.1万円にもなります。

4年後なら、1.331×1.1=1.4641倍と、ほぼ50%のコスト上昇になります。

同じ使用量でも、毎年10%ずつの物価上昇で、100万円の旅費が146万円以上にもコストアップすることになるのです。
ちなみに、粗利(売上総利益)に対する販売費一般管理費の割合は、75%程度が平均ですから、もしもすべての財の値段が一斉に10%ずつ3年間上がり続けたら、どうでしょう。

 営業利益を100とし、販売費及び一般管理費を75とすると、
 100-75×1.331=100-99.825≒0
です。

 知らないうちに、物価上昇は、粗利を食い尽くしていくのです。

…こわいですね。
インフレは、度を越えると、企業の粗利から順に各費用・利益を直撃し、収益を生む力を奪い取っていきます。
数年の長期的な観点で、管理・分析するのが望ましいでしょう。

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