譲渡価値のない特殊な資産項目「繰延資産」

まずは、基礎知識の確認です。
バランスシートの表示を概観してみましょう。

              B/S
      ―――――――――――――――――――
      (流動資産)   |(流動負債)
       現金預金 ×××|支払手形 ×××
       受取手形 ×××|買掛金  ×××
       売掛金  ×××|短期借入金×××
       棚卸資産 ×××|  :
        :      |(固定負債)
      (固定資産)   |長期借入金×××
       建物   ×××|  :
       構築物  ×××|(資本)
        :      |資本金  ×××
      (繰延資産)   |資本剰余金×××
       開発費  ×××|利益剰余金×××
        :      |  :
      ―――――――――――――――――――
      <資金の運用形態>=<資金の調達方法>

上記のように、バランスシートの左側は、資金をどのような形で運用しているかを、上から現金に近い順に、具体的な名称でたて一列に表示しています。

左側の項目は、一部を除いておおむね具体的な財産名を表します。
資産と呼ばれているグループですね。

いっぽう、バランスシートの右側は、左側の諸資産を手に入れるために、どのような手段で資金を調達したのか、を支払い時期の近い順に上からたて一列に並べて表示しています。

右上は、負債といって、将来の支払義務などを伴う項目ですね。
仕入代金の未払いである「支払手形」および「買掛金」や、金融機関などへ返済すべき借入れ額だる「短期借入金」や「長期借入金」などが、表示されています。

右下は、株主からの出資または営業活動から得た利益の合計で、資本ですね。ここは、株主に帰属する分、つまり、会社の資産をすべて処分し、負債をすべて返済したあとに残る、株主の取り分となる金額を表します。

          資産-負債=資本(株主の取り分)

以上が、ざっとではありますが、あらためまして、バランスシートの概観です。
※バランスシートの知識、キャッシュフローの知識、利益の意味など、 柴山会計サイトが扱う教材の総合案内ページはこちらです。
 → http://bokikaikei.net/kyozai-syokai.html

さて、ここで、バランスシートの左下に、いままであまり取り上げなかった項目があります。
繰延資産です。
繰延資産とは、
「当期に発生した費用項目ではあるが、その効果が将来にも及ぶため、便宜的に当期の費用とせず資産として取り扱い、将来へと費用配分する特殊な資産項目」
のことです。

一般的には、現金で支出され、当期に発生した交通費・広告費などの諸経費は、当期の費用として損益計算書に計上され、バランスシートの右下の利益と相殺されます。

<事例1>

当期中に電車やタクシーを利用した代金、すなわち交通費10万円を支出した。
      バランスシート          損益計算書
 ―――――――――――――――――    ――――――――
 現金預金 △10|            売上高 (省略)
         |             :
         |            交通費   10(△)
         |             :
         |                 ―――
         |利益剰余金△10 ←← 当期純利益△10
      ―――|     ―――         ===
  計   △10|  計  △10
      ===      ===

このように、一般は、当期に支出された費用項目の効果は、当期中にすべて現われると考え、損益計算書に登録され、当期の売上高から控除されます。これによって、当期の利益がマイナスになりますね。
(当期の費用は、当期の売上から差し引いて、利益を計算!)

このように、当期中の売上と、それに関連する費用を当期に計上し、利益を計算使用、という考え方を、「費用収益対応の原則」といいます。
だいたい、「今年の売上」から、「来年の費用」を引いても、正しい利益は算定できませんものね。

上記の場合は、
「今年の売上から、今年の売上に貢献した交通費10万円を 差し引いて(対応させて)、利益を計算した」
ということです。

通常は、上記の交通費や、交際費、水道光熱費、消耗品費などのように、当期の消費額は、おおむね当期の売上とのみ関連付けてよさそうです。
つまり、全体の費用の99%くらいは、「将来へも効果持続する」とは、考えないのが普通ですね。
常識的にはそれでOKです。
ただ、一部の費用項目の中には、「今年だけでなく、来年以降にも効果を及ぼすような、長期的な観点で支出される費用もある」ということを知っておきましょう。

たとえば、「市場開拓・新経営組織採用のための特別な支出」などがそうです。
これを、開発費と言います。
このような市場開拓・新経営組織などの費用は、将来にも効果が及ぶことを予定して支出されますので、その効果は当期だけでなく、来年、再来年にも期待されます。
このような場合は、支出した年に全額費用として利益から控除するのではなく、一部だけ費用とし、来年以降に効果を及ぼし、将来の売上にチャージ(将来の売上から控除)すべき部分は、経過的に資産の部においておく、という処理をします。

このような処理をする特殊な資産を、「繰延資産」といいます。
便宜上、開発費は、支出後5年以内に均等額以上を償却(均等額以上を費用配分)する、とされています。

<事例2>

当期中に市場開拓費用50万円を支出した。これを、繰延資産として処理する。
      バランスシート          損益計算書
 ―――――――――――――――――    ――――――――
 現金預金 △50|            売上高 (省略)
         |             :
         |            開発費償却  0(△)
         |             :
         |                 ―――
 開発費  +50|利益剰余金± 0 ←← 当期純利益± 0
      ―――|     ―――         ===
  計   ± 0|  計  ± 0
      ===      ===

<事例3>

当期の決算に際して、開業費を5年で均等償却するため、当期分の償却費10万円を、損益計算書の費用(営業外費用)とする。(△10万円=開発費支出50万円÷5年)

      バランスシート          損益計算書
 ―――――――――――――――――    ――――――――
 現金預金 △50|            売上高 (省略)
         |             :
         |            開発費償却 10(△)
         |             :
         |                 ―――
 開発費   40|利益剰余金△10 ←← 当期純利益△10
      ―――|     ―――         ===
  計   △10|  計  △10
      ===      ===

このように、開発費の支出1年目は、支出額50万円を全額当期の費用とはせず、40万円は繰延資産「開発費」として、便宜的に資産扱いします。

経済的実態としては、もちろんこの開発費に譲渡価値も財産価値もありません。
したがいまして、当期の利益を必要以上に低くしないための人為的な会計技術なのですね。

なお、企業買収のときの企業評価額算定上は、時価算定額から除外するのが理論的です。
ご参考までに、現行の会計制度では、たとえば次のような項目が繰延資産として存在します。

・創立費
・開業費 
・開発費 
・新株発行費 
・社債発行費
・社債発行差金 
・建設利息

以上、期間利益算定のための特殊な資産、「繰延資産」のお話でした。

PREV
NTTの大幅増配と、みずほの500円増配
NEXT
【研究開発費】という、企業の将来を担う重要科目