軽減税率

2014年02月18日

まちかど会計学

政治、経済、ビジネスに人間関係、街角のあらゆる話題に数字を結びつけ、会計士の立場から見た意外な真実や現代を生き抜くための転ばぬ先の杖をお伝えする、まちかど会計学。

2月も半ばになり、いよいよ確定申告の時期です。
会社の経営者の方や財務担当の方は大変ですが、先週と先々週は雪かきで大変でした。
私も雪かきをして腰が痛いです。

最近ちょっと面白いと思ったニュースがありました。読売の世論調査で気になる話があり、消費税率が8パーセントに引き上げられる4月以降の支出ですが、みなさんにも関係していますし、私も関係しています。

やはり、家計の支出を今よりも減らそうと思っている人が54パーセントもいます。
逆に言うと、46パーセントは減らそうと思っていないのかなということで、強気な発言ですごいと思います。

みなさん4月の8パーセントはある程度黙認というか、容認というか、仕方ないと覚悟を決めているのかもしれませんが、問題はもう1つあります。

以前にも申し上げましたが、来年の10月にさらに10パーセントに引き上げることを考えています。

それについては反対が68パーセントです。
一方、賛成が27パーセントいらっしゃいます。

こういうことを考えると、消費増税に関しては歓迎ではないという状況がよくわかります。
1,000円のものを買ったら100円の消費税がかかってしまいます。

10パーセントになると影響が大きいということもあって、密かに注目されているのが「軽減税率」です。

今回の4月は見送りになったので、1年半後の10月にやるということが言われていますが、「一部安くなるからいいかも」と思うかもしれませんが、本当に軽減税率が良いのか?というところに切り込んでみたいと思います。

そもそも、軽減税率ということについて少しアウトラインを確認しておきましょう。
字の通り、一部の品目の税率を軽くするということです。

なぜそんなことをするのかというと、聞いたことがあるかもしれませんが、消費税というのは「逆進性」といって、所得の低い人にとってはかえって負担が増えてしまうという不都合があります。

エンゲル係数という言葉でも有名ですが、例えば年収が1,000万円以上の人と300万円の人であっても、同じ1人の人間として食べるお米の量というのは同じです。

それを考えると、年収に対する生活必需品の支出割合は違いますから、収入が厳しい人のほうが収入に対する生活費の割合が大きいのです。

生活費というのはどうしても必要なものですから、消費税が上がったからといって急に食事の量を減らすということはできません。

生活必需品に対する支出の割合が所得に対して高い人は、そもそも切り詰めて生活をしているので、消費税率がアップしてもなかなか支出を抑えられないのです。

そうすると、その方たちが買う物の消費税を一律に同じ8パーセントや10パーセントに上げるのは、逆に不公平なのではないかというのが背景にあります。
対象としては、所得が低くて不利な人に公平なるように、そういう人が削れないような支出項目に対して税率を安くするということです。

例えば食料品のような生活する上で不可欠なものは税率を安くしようというものです。
たしかに理念としては分かりますし、道徳的にもやったほうがいいと思いますから、軽減税率を導入したほうがいいという意見も多いのです。

では、ここでまちかど会計学流に数字をよく考えてみましょう。
実際に導入している国がどのような状況になっているのかを見てみると、問題点が分かってきます。

有名なところではイギリス、ドイツ、カナダ、フランスがあります。

分かりやすいのは、贅沢品か必需品かの違いです。

フランスの事例を紹介すると、キャビアは贅沢品ですが標準税率が19.6パーセントです。
ちなみにフォアグラは5.5パーセントです。
トリュフも5.5パーセントなのです。

なぜ、キャビアは19.6パーセントなのにフォアグラやトリュフは5.5パーセントなのかというと、フォアグラ及びトリュフは国内産業を保護するため軽減税率が適用されているのです。

キャビアは高級品かつ輸入品であるため標準税率が適用されるのです。
よく考えてみてください。

「輸入品であるため」という理由が入った瞬間に、関税になると思いませんか?
これはまずいと思うのですけど、不思議です。

フォアグラやトリュフは高級品かつ国内品だからやすいのですかね?そうしたら贅沢品か必需品かというロジックに合いません。
このように、線引きが曖昧になりやすいという怖さがあります。

もう1つ面白いのは、マーガリンとバターです。

マーガリンが19.6パーセントで、バターは5.5パーセントです。

マーガリンに軽減税率が適用されないのは、バターを製造する酪農家を保護するためということですが、これはTPPと同じじゃないかと思ってしまいます。

産業を保護するかどうかというのは、贅沢か必需品かとは関係ないと思います。
さらにもう1つ面白いと思ったのが、チョコレートです。
普通のチョコレートは19.6パーセントですが、なぜか板チョコは5.5パーセントなのです。

個人的にサッカーはフランスが好きですが、消費税についてはよく分からないというのが本音です。
昔、チョコレートは高級品だったため、原則として標準課税ということらしいです。

イギリスのケースも非常に興味深くて、外食と食料品で分けています。
どちらも食料ではないかと思ってしまいますが、外で食べるかお持ち帰りかで税率が違ってくるということです。

標準税率が20パーセントで軽減税率は0パーセントです。
どういうケースかとういと、フィッシュアンドチップスやハンバーガーなど温かいテイクアウト商品、それに対して軽減税率0パーセントは、デリカテッセンなどスーパーの惣菜です。

何が違うのかと思います。
イギリスでは標準税率と軽減税率の区分けの指標として、気温より高く温められたかどうかが採用されています。

それを言うなら、平均気温が0度の地域や熱帯地域はどうなるのだということです。
ドイツの例を見てみると、標準税率19パーセント、ハンバーガー店内飲食用、持ち帰りが7パーセント、これは同じものです。

同じファストフードのハンバーガーであっても、店内飲食用と持ち帰り用で異なる税率が適用されます。

お店で食べたら19パーセントですが、持って帰ったら7パーセントです。
だから、1,000円のものを食べたとすると、お店で食べたら1,190円になって、テイクアウトの場合は1,070円となります。

カナダのケースは、ドーナツ5個以下ならば標準税率5パーセントですが、6個以上だと軽減税率が適用されます。

これも理屈が面白くて、「個数が少ない5個以下の場合はその場で食べるものとみなす」となっているのです。

こういう議論を日本でもこれからするということです。
何とでも理由を付けられるというのが私の印象です。

軽減税率を導入するときにネックになることとして、「品目の対象」と「税率をどうするか」という2つの判断基準の問題があります。

これを誰がどう決めるのかというので、かなり裁量の余地があります。
ここからは笑い事ではなくなる真面目な話なのですが、運用上の問題として手加減ができるわけです。

そうすると色んな問題が生じます。
裁量の余地があるというのは、色々な問題が出やすい温床になるのです。

先ほどまでの色々な国の事情がありましたが、日本の生活に当てはめて考えてみましょう。
食料品以外に問題になっているのは、書籍や新聞なども軽減税率の対象にしてしかるべきだろうということを新聞業界で自ら言っています。

海外でもそういう事例があるということなのですが、それはそれとして、日本での理屈を考えましょう。
言ってしまえば「新聞は知識だ」と。

知識は、民主主義は“頭の栄養”だからという理屈なのですが、ではすべての新聞が頭の教養になっているのかということを考えましょう。

そこで私が思い出すのは、昔に見た衝撃的な写真で、宇宙人が人間と手を繋いでいる写真や、人面魚の話題や、私は一時期東スポが大好きでしたが、「あれも教養になるのか」と思ってしまいます。

あとは、スポーツ新聞などを読んでいるとグラビアやヌード写真が見開きで入っているものも「知識」になるのか?と思いますし、逆にそれが売りの雑誌などもありますが、そういったものも“頭の栄養”ということで軽減税率の対象にしていいのかという問題があります。

あるいは、「ヌード写真が3ページ以下ならばいい」とか、そういう話になるのかなと思います。

漫画もそうですし、もしそこまで言うならば、内容に対して規制を加えるかどうかの問題も出てくるのではないかと思います。

タブロイド紙のようなものも一律減税にしてしまっていいのかなという疑問があります。
軽減税率を適用する場合は、運用状況の確認のための作業やそれに関するコストもかかります。

あるいは軽減税率に関する新しい仕組みを入れると、店員の教育や社内の仕組みづくりやシステムも変わります。

例えば請求書の発行です。
複数の税率を使うということは、軽減税率を適用する商品と標準税率を適用する商品が混在している場合に領収書や請求書を発行する場合はシステム対応が大変になります。

打ち間違えてしまったら経理の修正や監査が大変になります。
そうすると混乱してしまいます。

それと、一般論として、裁量の余地があると、お伺いをたてるために業界や会社で尻尾を振りたくなります。
そうすると、天下りなど色んなことがあるかもしれません。

どこの業界の軽減税率を適用するかによって見返りというのはあり得ます。
あくまで私の個人的な印象ですが、新聞というのは消費増税に対して、消費増税がそもそも必要か必要ではないかという、ゼロベースの議論はなかなかできません。

これで見てみたいのは、軽減税率を導入するときに、新聞はやっぱりあまり大きく議論をせずに軽減税率の対象になった場合は、遡って「あのときに大きく反対しなかったね」と思ってしまうかもしれません。

軽減税率の中に新聞がどういう経緯で入ってくるかは当然議論になると思うので、そこは見ていきたいです。

そもそも、目的に適っているかどうかという、制度の趣旨が迷走してくる可能性があります。

というふうにいくと、最終消費者の負担を適正に保つという初期の大義名分がだんだん霞んでくるのではないかと思っています。

さきほどのお話のように、なぜキャビアが標準税率でフォアグラが軽減税率なのかや、ハンバーガーも中で食べると高くてテイクアウトが安いなど、納得のいかないようなことが多くなってしまいます。

店の中で食べるけど領収書はテイクアウトのものにするという不正もありそうです。
変なことを考える人も出てきそうな気がします。

ただ、会計ソフト会社は、軽減税率によってシステムを導入するのでバージョンアップ費用が取れて喜ぶかもしれません。
とういことは、その費用を払うほうはコストがアップするということです。

そのようなコストアップが最終的に商品の価格に転嫁されてしまったら意味がなくなってしまいます。

軽減税率は適用しているのに元の値段が上がったというようなおかしなこともあり得ます。
本来の目的とは違う流れになってしまわないように、注意して軽減税率の導入はみんなで慎重に議論をしてほしいと思います。

今回は軽減税率の対象品目の事例をご紹介しましたが、みなさんがもし政府の人間だったら、軽減税率の対象品目はどういった基準で分けますか?あるいは何を軽減税率の対象にしますか?「自分ならこういうものに軽減税率を適用する」などというご自身の考えなどを私のホームページまで投書してください。

私への投書は消費税免除です。
みなさんからのご意見・ご感想のメールを http://bokikaikei.net までお寄せください。

今回のまちかど会計学もバラエティに富んだお話をしましたが、次回も会計士独自の視点で、現代を生きるための“転ばぬ先の杖”をお伝えしたいと思います。
お相手は公認会計士の柴山政行でした。